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福岡高等裁判所 昭和57年(行コ)12号 判決

福岡市南区大橋1丁目8番21号

控訴人

弥吉悦子

右訴訟代理人弁護士

合山純篤

同市中央区天神1丁目8番1号

被控訴人

福岡市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

杉原實

右訴訟代理人弁護士

稲澤智多夫

右当事者間の固定資産税課税審査棄却取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。物件の所在地、福岡市南区大橋1―8―1 大橋西口ビル2階、地目種類、機械及び装置並びに工具器具及び備品、登録価格603万5,809円、申出価格403万4,621円について、控訴人の福固審委第2号償却資産の固定資産評価審査申出に対して被控訴人が昭和56年6月22日付でなした「本件審査申出を棄却する。」との決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。(ただし、原判決4枚目裏末行の「市長村長」を「市町村長」と訂正する。)。

(控訴人の主張)

控訴人の主張する月割償却法が固定資産評価基準より、より合理性を有するものであるから、固定資産評価基準は月割償却法による評価方法を排除する趣旨と解すべきではない。

(被控訴人の主張)

固定資産評価基準は、法的拘束力を有しているものであるから、控訴人主張の月割償却法は許されない。もっとも月割償却法は立法政策としては考えられないではないが、厳密な意味での課税額の期間配分は大量で迅速な処理が要求される税務実務上では採用が困難である。

(証拠)

控訴人は、新たに甲第4号証を提出し、乙第9号証の1ないし4の成立は認める、同第10号証は原本の存在及び成立とも認めると述べ、被控訴人は、新たに乙第9号証の1ないし4、第10号証を提出し、当審証人篠崎幹雄の証言を援用し、甲第4号証の成立を認めると述べた。

理由

当裁判所も控訴人の請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、原判決理由の二、3、4(原判決10枚目裏2行目から16枚目裏8行目まで)を次のとおり改め、同9行目の「三」を「六」と訂正するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

「三 控訴人は固定資産評価基準が法的拘束力を有するとしても、控訴人主張の月割償却が固定資産評価基準の採っている半年分償却(当該償却資産の取得価額から当該償却資産の取得価額に〈省略〉を乗じて得た額を控除して前年中に取得された償却資産を評価する方式・αは減価償却率)より、より合理的であるから、これを排除する趣旨に解すべきではない旨主張する。

地方税法(以下「法」という。)349条の2は「償却資産に対して課する固定資産税の課税標準は賦課期日における当該償却資産の価額で償却資産課税台帳に登録されたものとする。」と規定し、当該年度の初日の属する年の1月1日を賦課期日と定めている(法359条)。しかしながら、所轄官庁が賦課期日に膨大な個々の償却資産に当って評価することは現実的に不可能であり、それかといってその評価が各市町村において異なるようでは到底納税者間の公平を期すことができないのであって、法388条が評価の統一均衡化を計る目的から自治大臣に固定資産評価基準の定立を委任したのもまさにこの点にあったというべきである。従って、自治大臣は固定資産税の性格、納税者の公平、評価事務の簡便さなど総合的な見地から評価基準を定立しうべきは当然の事理である。ところで固定資産税は財産税であり、その価値に着目してこれを所有している事実に担税力を求めるものであるから、購入された同種同価値の償却資産に対する課税額が同一であることが固定資産税の性格に適合し、納税者にとっても公平であることは言うまでもないことである。しかして、控訴人は、償却資産の耐用年数、減価償却率については、これを問題としているものでないこと、弁論の全趣旨から明らかであるから、事は専ら前年中に取得された償却資産の評価を控訴人主張の月割償却とすることが固定資産評価基準の定める半年分償却より合理的で固定資産税の性格に適合しているかということに帰するところ、【A】控訴人主張のような月割償却をもって償却資産の評価をなした場合は、同一価格の同種の償却資産でありながら当該年度の何月に購入したかにより償却資産課税台帳に登録される価格を異にし、当該償却資産の耐用年数の期間における税額に多寡を生じるが、半年分償却の場合は当該年度の何月に購入したかにより登録される価格に差異は生せず、課税額も同一となることは明らかである。のみならず、月割償却によって償却資産の評価を行うことになれば、年度の早い月に償却資産を購入した者が、税額が少くて済むのであるから、償却資産の購入者はいきおい償却資産の申告において、取得時期を遡らせて申告する弊害を生じかねず、評価事務の面においても取得時期の真偽の審査を密にしなければならず、評価事務が煩雑になることも否定できない。以上のとおり、固定資産評価基準の半年分償却は固定資産税の性格に適合し、納税者に公平であり、評価事務が簡便であるというべきである。ただ「償却資産に対して課する固定資産税の課税標準は賦課期日における当該償却資産の価格……」との前叙の規定から、月割償却が半年分償却より賦課期日における当該償却資産の時価に即すると考えられる面もないではないが、もともと賦課期日における当該償却資産の損耗度はその使用の多寡により一様ではないのであるから、前叙の【A】固定資産税の性格や納税者の公平の観点から前年中に取得された償却資産の賦課期日の評価として画一的に当該償却資産の取得価額から当該償却資産の取得価額に償却率の2分の1を乗じて得た額を控除したものとする固定資産評価基準は、合理性を有するものであり、右法条の趣旨に反するものと断ずべきではない。

右に述べたように、固定資産評価基準の定める算定方式自体は合理的なものと考えられるが、一方では法414条が、償却資産の評価の価格は、「法人税法又は所得税法の規定による所得の計算上損金又は必要な経費として控除すべき減価償却額又は減価償却費の計算の基礎となる償却資産の価額を下ることができない。」と規定し、法人税法施行令59条1項1号、所得税法施行令132条1項1号が事業年度の中途で事業の用に供した減価償却資産の償却限度額として月割償却を採用していることから、年度後半に取得した償却資産については固定資産評価基準に基いて半年分償却をすることができず、月割償却を行うこととなり従って、年度前半に取得した償却資産と年度後半に取得した償却資産とでは評価方式が軌を一にしていず、年度後半の償却資産の取得者に対しては、同一価格の同種償却資産を取得した場合でも、当該償却資産所定の耐用年数期間における税額が年度前半に取得した者に比して高額となる結果をもたらしていることは明らかである。控訴人はこの点を捉えて課税が一貫せず不合理であると主張するが、法414条の規定の趣旨は、事業を営む法人又は個人が法人税又は所得税の納税額を不当に減少させようとして償却資産を過大に評価した場合は、償却資産の税額の増大をもたらしめることにして償却資産の過大評価を可及的に防止し、固定資産税と所得税及び法人税との間の抑制と均衡を計ろうとするものであり、同条はそれ自体合理的根拠を有する立法であるだけでなく、しかも、法人税法及び所得税法においても、年度の中途において事業の用に供した減価償却資産である機械及び装置等について、所定の期日までに、所定の事項を記載した書類を所轄税務署長に提出することにより、初年度半年分償却をなしうる特例を認めているのであるから、(法人税法施行令59条2項、所得税法施行令132条2項)、かかる手続をとらなかった以上、固定資産評価基準によって算定された償却資産の価格が、法人税法、所得税法上の減価償却費計算の基礎となる償却資産の価格を下廻る場合には、後者の価額をもって固定資産の課税標準たる価格とせざるを得ないことは、やむを得ないこととしなければならない。

要するに、固定資産評価基準に定める償却資産の評価基準は合理的であり、国民の財産権を不当に侵害する違法無効のものではないというべきである。

四 次に、控訴人は固定資産評価基準が法的拘束力を有するとすれば右基準は合理性を欠き租税法律主義に反し憲法29条、89条に違反する旨主張する。憲法84条は租税を賦課するには法律又は法律の定める条件によることを必要とするとしているが、法律の定める明確な基本的決定の下に細目的事項は命令などに委任することを排除する趣旨ではなく、それを予定していると解すべきであるところ、前叙認定のとおり、固定資産評価基準は法388条1項に基づき、その明示的具体的委任を受けて自治大臣が固定資産の評価の基準並びに評価実施の方法及び手続について定めたものであり、法の正しい解釈に合致する合理的なものであることも前叙のとおりであるから、固定資産評価基準を目して租税法律主義に反し、国民の財産権を不当に侵害する違法のものというを得ない。控訴人の主張は採用できない。

五 以上のとおり、被控訴人が本件償却資産の評価につき法及び固定資産評価基準の定める算定方式に従ったことに違法、違憲とすべきところはなく、被控訴人が右基準に則って評価した本件償却資産の価格が合計603万5,809円を下らないことは計算上明らかであるから、被控訴人の本件決定は相当というべきである。」

よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民訴法95条、89条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西岡徳壽 裁判官 松島茂敏 裁判官 前川鉄郎)

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